特許事務所の残業が多い理由。
公開日:2017/08/08 | 最終更新日:2018/01/19
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一例として、税理士は、確定申告前には集中的に残業・休日出勤をする必要があります。弁理士が在籍する特許事務所も残業の多い業種といえます。それは何故なのか、その理由と残業の態様について見ていきましょう。
1.弁理士に残業が多い理由
(1)先願主義
日本では、工業所有権は全て、先に出願した者が勝つ「先願主義」が採用されています。そのため、出願を急ぐ必要があります。ただし、出願書類の作成だけ残業することは少ないのですが、多くの件数を依頼されたり、他の業務と重なったりした場合は、出願書類作成のために残業することもあります。
先願主義ですので、依頼人もできるだけ早く出願してほしいと考えています。弁理士に残業が多い要因の一つでしょう。
(2)期限が設定されている手続が多い
先願主義の他に、弁理士に残業が多い要因として、弁理士の扱う業務は期限が設定されている手続が多いことが挙げられます。出願後の手続は、ほとんど全て期限が設定されており、そこから逆算して作業を進めなければなりません。例えば、拒絶理由通知に対する意見書・補正書提出期限、優先権主張期限、審判請求期限、訴訟提起期限などが該当します。
期限延長が可能な手続もありますが、全て依頼人の意向でなければなりませんので、弁理士が自分の仕事の都合で期限延長を行うと、依頼人からの信用を大きく損なうことになりかねません。
逆に、依頼人からの指示が遅くなったり、依頼人が意見書案等の修正指示を繰り返す場合など、依頼人の都合により残業が必要になる場合もあります。
いずれにせよ、対応せずに期限が経過してしまうと権利化の途が断たれる可能性がありますので、弁理士としても一番神経の使うところであり、残業をしてでも、期限を守るように作業を進めなければなりません。
2.特許事務所の所員に残業が多い理由
(1)所員一人あたりの作業量の増加
昔は弁理士報酬額表に基づいて報酬を得ることができたのですが、平成13年に新たな弁理士法が施行されたことに伴い、弁理士報酬額表が廃止されました。弁理士業界も自由競争に突入し、かつ、国策により弁理士数が増加したこともあり、報酬額が一気に減ったと言われています。
そうなると、特許事務所の売上・利益も減りますので、多くの所員を雇用することができず、少人数の所員で作業を行うことになります。実際、所員が辞めても補充しない、という話をよく聞きます。そのため、残業が常態化している特許事務所も少なくありません。
(2)外国案件の増加
現在の日本では物が売れなくなっていますので、外国で製造・販売することを重視している企業が多くなっています。となると、外国(特に中国)で盗み取り出願(「冒認出願」といいます)されたり、外国で特許製品を模造されたり、模造品を販売されたりすることを避けなければなりませんので、日本出願の後に、外国出願を行ったり、国際出願(「PCT出願」といいます)を行うことが多くなっています。実際の出願件数でも、国内の出願件数は減少傾向ですが外国の出願件数が増加傾向が続いています。
これら外国案件は、高額の弁理士費用を請求することができる一方、弁理士や翻訳担当者にとって負担になることが多いです。翻訳量が膨大になりますし、外国の法制度・審査実務等についてある程度知っておく必要があるからです。日本の法制度等だけでもかなりの分量になりますので、外国案件の処理はかなり大変です。
そして、外国案件は複数国に出願するのが一般的ですので、一気に仕事が増え、残業時間が長くなってしまうのです。
特に上記(1)及び(2)の要因によって、昔と比べて現在の特許事務所の負担・残業量は多大になっているのが現状です。
3.業態別の残業状況
(1)大手特許事務所
取扱件数は多いですが、分業化及びシステム化が進んでいるため、効率的に作業を行っている事務所がほとんどです。企業と同様、残業時間も厳しく管理されていて、一部の所員だけが長時間残業を行うことは稀でしょう。
(2)中規模特許事務所
取扱件数もそこそこ多く、大企業からのまとまった件数の依頼もあることから、一所員の作業量は多くなりがちです。分業化されてはいるものの、実務系と事務系などざっくり大きく分かれているだけのこともあり、特許事務所の中では一番残業が多い業態かもしれません。
また、外国案件の情報も大手特許事務所ほど整っておらず、逐一弁理士が自分で調べたり現地代理人に確認することが多いでしょう。
(3)小規模特許事務所・個人特許事務所
これらの特許事務所は、所員のほとんどが弁理士であり、事務作業を含め各弁理士が全ての業務を行うことが多いので、作業量自体は中堅特許事務所の弁理士に匹敵するのではないでしょうか。ただし、これらの特許事務所に所属している弁理士は、土曜、日曜・祝日も仕事を行っていることが多いため、休日出勤は多いかもしれませんが、平日の夜間まで行う残業は少なくて済むでしょう。
仕事量がそのまま収入に反映されることも多く、仕事量が多くてもやりがいを持って作業を進められるのではないでしょうか。
(4)企業の知財部
企業の知財部の残業は、会社の方針に大きく依存します。知財に関する上層部の理解が不十分な会社は、まず知財部員が上層部に対して説明(教育)しなければなりませんので、作業時間・負担が大きくなります。また、そのような会社の場合、知財部を充実させようという考えになりにくい傾向がありますので、限られた知財部員が膨大な数の案件を管理・処理しているようです。
そのため、会社によっては、残業時間がもっとも多い業態と言えるかもしれません。
業態によっては、体を壊してしまうほど残業時間が多いところもあります。そのため、「実際は」労働基準法で定められている残業時間が守られていない特許事務所もあると聞きます。弁理士資格がない所員・社員の場合はともかく、弁理士資格を持っている場合は、そのように残業時間が長くなった段階で転職することも多いでしょう。
なお、ポジション的には、中間管理職的なある程度ベテランの弁理士の残業時間が多いのではないでしょうか。
4.残業代
基本的には一般所員や勤務弁理士に対しては残業代が支払われます。一般企業は、残業申請をして、許可された場合にのみ残業ができるところも増えています。企業弁理士も例外ではありませんが、専門的かつ特殊な仕事ですので残業の要否判断が難しく、許可されることが多いかもしれません。
なお、管理職に就いている弁理士は、残業代が支給されないのが一般的なようです。
5.まとめ
小規模特許事務所や個人事務所では、一時的に仕事が重なり、「徹夜作業をした」という話もあります。中堅特許事務所以上になると、恒常的に仕事があり、コンスタントに長時間残業を行っている場合がありますので、改善すべき問題でしょう。
法律事務所等では既に導入しているところもあるようですが、人工知能(AI)を使った作業処理を特許事務所等でも行うようになると、残業時間も大幅に減らすことができるかもしれません。逆に、「人余り」という問題が生じるおそれがありますが。
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