特許事務所の事業承継について
公開日:2019/08/26 | 最終更新日:2021/12/27
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弁理士は、原則として、弁理士試験に合格して研修(実務修習)を修了しなければ登録することができない士業であり、弁理士以外の者が報酬を得て知財に関する代理業務を行えば、弁理士法に基づき、刑事罰の対象となり得ます。
特許事務所は、日本弁理士会による情報公開(2021年11月30日現在)で示されているように(https://www.jpaa.or.jp/about-us/members/)、弁理士1人の事務所の割合が全体の70%を占めており、その弁理士が亡くなったり何らかの理由で業務を行えなくなったりした場合、事務所は業務を継続することができないことから、後継者となる弁理士の確保がよく課題となっています。
一方、特許権の存続期間は出願日から20年と定められており、商標権になると登録日から10年毎に更新できる「半永久権」ですので、依頼人とは長い付き合いになることが多くなっています。同様に依頼人と長い付き合いになる士業としては、日常的に処理される経理に携わる税理士等がありますが、弁理士は仕事の性質上、通常は、税理士ほど頻繁に依頼人と連絡を取り合ったりしませんので、事業承継がうまくいかなかった場合、依頼人に迷惑をかけてしまうことも考えられます。
このような状況の下、特許事務所業界には特有の事業承継問題があり、最近は他の業界と同じように後継者不足に悩んでいるケースが増えています。今回は、特許事務所の事業承継にスポットを当ててみたいと思います。
1.特許事務所で行われる知財業務について
特許事務所のメイン業務は、文字通り、発明相談と特許出願、あるいは、商標登録出願で、次いで外国出願や意匠登録出願等が挙げられます。上で述べたように、これらの出願手続の結果、権利が付与された場合は、数十年の権利期間が与えられます。そして、定期的に、特許料の納付手続や商標登録の更新手続等を行う必要があります。また、外国案件を管理すると国内案件より大きな手続負担が発生します。さらに、訴訟手続を受任することもあり、訴状や答弁書の作成、及び、証拠資料の収集など、費用も高額になるだけに、出願手続以上に神経を使います。
この繰り返しで継続的に依頼案件を処理していくとなると、弁理士1人の特許事務所では結構大変です。そのため、そのような1人事務所でも、特許技術者、図面担当、事務員等が在籍しているのが一般的です。状況によっては、マンパワーを考慮して業務範囲を対応可能な分野に限定している事務所もあります。
2.特許事務所業界の現状
つい最近まで、弁理士合格者数が増えすぎていることが問題視されていたため、後継者問題についてはほとんど議論されていませんでした。ところが、合格者数が減り始め、企業内弁理士が増えたことから、後継者問題が表面化し始めました。平成30年度の弁理士試験以降は、志願者数は4,000人を下回っており、最近の傾向と合格率を考えると、今後、志願者数は約3,500人前後、合格者数は約200~250人に落ち着きそうです。
その一方で、上で述べた日本弁理士会の情報公開によると、2021年11月30日現在の弁理士の平均年齢は、52歳を超えています。また、特許庁の発表による令和3年度の弁理士試験志願者統計(https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-tokei/2021.html)では、受験者の平均年齢は41.9歳(令和2年度は42.5歳、令和元年度は42.4歳)となっています。他の士業と比較しても異質とも言える平均年齢の高さもさることながら、平均年齢が年々上がっていることに注目すべきです。つまり、若年層の受験生が減っており、若い人にとって、弁理士という仕事に魅力を感じなくなっている可能性があるということです。これは、特許事務所の後継者問題を考えた場合、決して無視できない傾向です。
また、志願者の比率は年によってバラつきがあるものの、会社員による受験が約50%と圧倒的に多く、特許事務所勤務者による受験は約20%に過ぎません。合格者も近い比率となっており、令和2年度の弁理士試験における特許事務所勤務者の合格者数は80人にまで減少しました。
1人事務所で後継者問題が生じていないのは、所長弁理士の子供等が後継者として既に弁理士になっている場合ぐらいであるといっても過言ではありません。これが特許事務所業界の現状です。
3.特許事務所の後継者問題に関する対応
上記のような状況に鑑み、特許事務所の後継者問題が、日本弁理士会の会員からも多く訴えられるようになりました。最近の動きとして、日本弁理士会は、会員向けのマッチングシステムを稼働させたり、全国の主要都市でマッチングセミナー等を開催して、他の弁理士への事業承継を希望する弁理士と、受け入れを希望する弁理士との仲介を行っています。
また、承継者を探している弁理士は、弁理士同士の会合等を通じて、直接的に又は紹介等により間接的に受け入れてくれる弁理士を探すこともあります。
さらに、近い将来の事業承継を前提として、独立開業を考えている弁理士を雇い入れる特許事務所も存在しています。このような場合、共同経営という形になり、特許事務所の名称も変わることが多いです。事務所としては相乗効果により、依頼件数が伸びたという話も聞きます。逆に、後継者としての弁理士とうまく仕事を進めることができず、事務所が評判を落としてしまうこともあるようです。年齢差がある弁理士同士が事務所を経営していく場合、難しい点も多々ありますので、失敗する可能性も見越して早めに対応していくことが重要でしょう。後継者の採用については、専門の転職エージェントに内密に依頼をしているようなケースもあるようです。
4.継続して依頼を受けるための留意点
高齢の弁理士が1人しかおらず事業承継を考えているような特許事務所でも、依頼者は、きちんと対応してくれると信じて継続して依頼してくれることが多いです。ただし、弁理士が年齢と共に体調を崩したり対応が遅くなったり、ミスが目立つようになると、依頼者としては不安を感じるようになりますので注意が必要です。最近では、企業が特許事務所と取引をするにあたり、弁理士の在籍人数を確認する所などもあるようです。最悪の場合、他の事務所へ依頼し始めたり、これまでの案件の管理を移されることになりかねません。そのような状況になる前に、後継者を確保した上で依頼人に説明しておくことが、特許事務所の経営者だけでなく、後継者にとっても所員にとっても重要でしょう。
また、後継者である弁理士と依頼人との相性により、依頼が途絶えることもよくあります。後継者が自分の子供や子供の配偶者である場合は仕方がありませんが、他人に任せる場合は、その点についても考慮しておいた方がよいでしょう。
5.まとめ
最近の弁理士試験の動向や志願者の割合を見ても、今後、若くて且つ後継者となるような弁理士が増加することは考えにくいため、特許事務所の経営者は早めに対策を講じるべきでしょう。
実際、特許権の存続期間が出願日から20年であることを考えますと、60歳以上の一人弁理士による特許事務所の場合、新規の依頼人からは仕事を受任しにくくなりますし、70歳を超えて、後継者を探し出しても良い弁理士とは巡り合えないかもしれません。
多くの特許事務所にとって、後継者問題は喫緊の課題と言えるでしょう。
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