弁理士が関わる訴訟とは
公開日:2017/10/31 | 最終更新日:2020/08/12
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弁理士は理系の資格と言われますが、基本的には法律系の資格です。そして、訴訟対応が必要な場合もあります。それでは、弁理士が関わる訴訟とはどのようなものでしょうか。詳しく見ていきましょう。
1.弁理士が対応できる訴訟業務
(1)審決取消訴訟
審決取消訴訟とは、特許庁の審判官がなした審決や決定に不服の場合に、知的財産高等裁判所(以下、「知財高裁」)に提起する訴訟をいいます。
審決取消訴訟に至るまでの特許庁内の手続の流れは、下のようになります。
①出願の拒絶の場合
出願→審査官による審査→拒絶査定→
拒絶査定不服審判→審判官による審理→請求棄却審決→審決取消訴訟
②特許異議申立の場合
出願→審査官による審査→特許査定→設定登録・特許公報発行→
異議申立→審判官による審理→特許取消決定→審決取消訴訟
※特許維持決定のときは審決取消訴訟を提起できません。特許維持決定に不服の場合、異議申立人は新たに無効審判を請求すればよい、という考えからです。
③無効審判の場合
特許に対する無効審判請求→審判官による審理→請求認容審決・請求棄却審決→
審決取消訴訟
審決取消訴訟では、弁理士は単独で訴訟代理人になれます。行政手続に関する訴訟であり、単に審判官の判断(審決)の当否を争うものだから、というのがその理由です。審決取消訴訟の第一審が、東京地方裁判所等の地裁ではなく知財高裁になっているのは、特許庁の審判手続が、地裁レベルかそれ以上の高度な審理能力を持っていると考えられているからです。
なお、審決取消訴訟の件数は、年間約300件となっていますが、近年減少傾向にあるようです。
(2)知的財産権侵害訴訟
知的財産権侵害訴訟(以下、「侵害訴訟」)とは、知的財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)を侵害している第三者に対し、差止請求や損害賠償請求を行う訴訟をいいます。特に商標権侵害訴訟では不正競争防止法に基づく主張も併せて行われることもよくあります。
民法や民事訴訟法等も深く関わってきますので、弁理士は、弁護士と共に行わなければ侵害訴訟の手続を進めることはできません。すなわち、侵害訴訟では、弁護士が主となって対応します。このとき弁理士は、「訴訟代理人」となるか又は「補佐人」となって、主に技術内容を把握・分析する役割を果たします。
十数年前までは、弁理士は「補佐人」にしかなれず、実際の裁判では権限が大きく制限されていました。その後、特定侵害訴訟代理業務試験制度が設けられ、この試験に合格し付記を受けた弁理士(以下、「付記弁理士」)は、「訴訟代理人」として侵害訴訟に携われるようになりました。付記弁理士は、弁護士が選任されているという条件で、訴訟代理人になることができます。いわゆる弁護士のサポート役になりますが、裁判所が相当と認めるとき場合は、弁理士が単独で裁判所に出頭することも可能になりました。
なお、特許権に関する侵害訴訟は、東京地方裁判所か大阪地方裁判所に提起しなければなりません。これは、特許の内容は非常に専門性が高く、技術的事項については素人である裁判官には判断が困難であるからです。そのため、東京地裁と大阪地裁には知財案件を扱える裁判官を配置し、民事訴訟法に規定を設けて(第6条)これらの地裁を専属管轄にすることにより、公平で正当な判決を下すことができるようにしているのです。
侵害訴訟は、企業同士の争いになりやすく、手続が複雑になることがしばしばです。具体的には、以下のような理由によります。
①侵害訴訟の被告から無効審判を請求されるなどの反撃を受ける場合が非常に多い。
②無効審判を請求された原告は、訂正請求を行い、特許が無効にされるのを防ごうとすることが多い。
③差止請求と共に仮処分の申請を行うことが多い。
上記のとおり、侵害訴訟提起後に無効審判請求や訂正請求等の特許庁での手続が新たに発生することが多くなっていますので、弁護士が主となって行動するとはいえ、弁理士の役割も非常に重要となります。そして、これらの手続が並行して進みますので、弁理士の労力が非常に大きくなります。必然的に費用も高額になりますので、受任当初の費用説明はもちろんのこと、逐一依頼人に理解を求めながら作業を行うことが重要でしょう。
また、弁理士としては、利益相反行為(いわゆる双方代理)にならないか確認することも重要です。
なお、侵害訴訟の件数は、年間約100件となっており、ほぼ横ばいに推移しています。
(3)外国における訴訟
例外的な案件ですが、外国における知財訴訟も弁理士を介して行うことが多いと思います。有名なアップルコンピュータとサムスン電子が争った知財訴訟のように、複数の国で同時進行的に手続が進むことが少なくありません。そのため、日本での訴訟は弁理士が直接関与し、外国での訴訟はその弁理士(が属する特許事務所)と取引のある外国の特許事務所等が手続を行うことが一般的です。
外国、特にアメリカ等は弁護士費用が高いため、訴訟費用が膨大になることがあります。仮処分申請に関わる供託金等も高額になることが多いため、注意が必要でしょう。また、日本と外国とでは特許された内容が異なることも多く、訴訟の判決内容も違ってきますので、事案が一層複雑になることが予想されます。
さらに、外国の訴訟で問題となりうるのが、翻訳です。相手方が提出した証拠資料、及び、こちらが提出する証拠資料、どちらも膨大な量になりますが、それらを翻訳・精査しなければなりません。ましてや英語圏以外の国での争いになった場合、現地代理人による現地語⇔英語(又は日本語)の翻訳が正しいことを信じるしかなく、弁理士としてもプレッシャーがかかるところです。
外国案件が増え続ける現代においては外国訴訟が増加するのは仕方がないことかもしれませんが、訴訟に費やす時間と労力も必要となりますので、そのような事案が発生したときにどのように対応するか、弁理士としても予め考えておいた方がよいでしょう。
2.訴訟手続の流れ
訴訟手続の大まかな流れについて、一般的な知財訴訟である特許権に関する侵害訴訟(差止請求及び損害賠償請求)を例に説明します。
訴訟提起(東京地方裁判所又は大阪地方裁判所)→侵害論の審理→(特許権侵害が認められた場合)→損害論の審理→判決・和解→(特許権侵害が認められなかった場合)→判決
3.まとめ
いかがでしょうか。日本では知財訴訟の件数は多くなく、実際に訴訟を扱った弁理士も少ないのが現状です。原因の一つとして、特許権者の勝訴率が約20%と非常に低いことが挙げられます。他国をみますと、特許権者の平均勝訴率は約40%といったところです。そのため、特許権者としても、費用が無駄になる、特許無効審判を請求され特許自体を無効にされるか権利範囲を大幅に縮小せざるを得なくなる、というデメリットを考え、訴訟提起に慎重にならざるを得ないのでしょう。その他、なるべく訴訟を避けたいというある種の国民性も反映しているのかもしれません。
依頼を受けた場合、弁理士は、依頼人に対し、和解等の訴訟提起以外の方法を考慮することも提案すべきでしょう。
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