M&Aの実務の内容と、会計士のM&Aの実務における役割について
公開日:2017/12/17 | 最終更新日:2017/12/17
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M&Aの実務の内容と、会計士のM&Aの実務における役割について、確認してみましょう。
M&Aとは
M&Aとは、Mergers and Acquisitions(企業合併と企業買収)のことです。企業買収のうち買収先企業の株式を過半数以上取得する株式譲渡が多いです。なぜなら、合併の場合、2つの会社が1つになるので合併される会社が消滅してしまい、売り手としては避けたいためです。
一方で、企業買収のうち、株式譲渡は、株式の取得で済むので、手続きが簡便なため、売り手にとっては、会社が存続するので、受け入れる傾向があります。
M&Aのメリットとデメリット
M&Aのメリットとデメリットについて、確認してみましょう。
M&Aのメリットとしては、以下のものが挙げられます。
・自社の経営課題を解決する手段として利用できる。
・買収側は、既に実績のある会社を買収するので失敗の可能性が低い。
・創業者利潤を確保することで、引退後の資金を手に入れることが可能である。
・売却価格は当事者の交渉で決まるので思うような価格でなければ断ることができる。
M&Aのデメリットとしては、以下のものが挙げられます。
・M&A後、統合に向けた作業が必要になり相当の手間がかかる。
・売却後、旧来の取引先、従業員等から取引打ち切りや退職を言い出される可能性がある。
よって、M&Aは買収側並びに売却側の双方にとって、メリットのほうがデメリットより多いといえます。
M&A実務の流れ
M&A実務の流れは以下のようになります。
売り手とM&Aアドバイザーとの契約
まずはM&Aアドバイザーとの個別面談を行います。機密保持契約とファイナンシャルアドバイザリー契約の締結を行います。
提案資料の作成
売り手の経営者はM&Aに必要となる決算書などの一連の資料を提出し、M&Aアドバイザーは経営者との面談でのヒアリング内容をもとに、買い手に対する提案資料の作成を行います。
買い手とM&Aアドバイザーの契約
買い手はM&Aアドバイザーとの個別面談を行います。買い手と売り手の納得がいけば、機密保持契約とファイナンシャルアドバイザリー契約の締結を行います。
トップ面談
買い手側が買収への興味を示し、双方先に進めたいという事であれば、経営陣同士の「トップ面談」を行います。
基本合意契約書の締結
売り手がその内容に合意した場合、売り手と買い手の間で合意している条件などが明記された基本合意契約書を締結します。
デューデリジェンスの実施
基本合意が締結されたら、買い手サイドの公認会計士や弁護士などによるデューデリジェンス(財務調査や法務調査)を行います。デューデリジェンスではリスクの洗い出しや解消方法などを調査します。買い手は専門家から提出されるデューデリジェンスのレポートをもとに、最終的に当該M&A取引を実行するか,条件面の再交渉に入るかの判断を行います。
クロージング
株式譲渡などの場合、経営者の個人的な目的で購入された資産を経営者が対象会社から買い取るなどの諸手続を進めることが必要になります。そして、譲渡対価の決済および株券や会社代表印の引渡しなどをすべて完了して、クロージングとなります。
デューデリジェンス
M&Aにおいて、会計士が行う業務は、デューデリジェンスになります。
デューデリジェンスは、以下のような内容になります。
デューデリジェンスの意義と目的
企業経営におけるすべての意思決定は、事実を確かめることからはじまります。企業買収や組織再編、経営統合を考える際には企業の実態調査は不可欠です。
特に近年経営者の説明責任が問われており、企業買収や組織再編、経営統合などの取引の合理性を株主をはじめとする利害関係者に説明するためには、事前に十分な実態調査、つまりデューデリジェンスを行う必要があります。
デューデリジェンスを実施する目的は、以下に大別されます。
(1)M&A戦略:調査対象が自社のM&A戦略に適合したものであることを確かめる
(2)企業価値算定:発見事項を織り込んで買収価格の算定に資する情報を提供する
(3)ストラクチャリング分析:当初意図していたストラクチャーでよいか否かの検討材料とする
(4)M&A契約条件の分析:契約で遮断すべきリスク項目の洗い出しと対応策を検討する
(5)M&A後の統合準備:買収後に問題となる事項を早期に発見し、取引後の対処を可能にする
財務デューデリジェンス(財務DD)
財務デューデリジェンスの意義と目的
財務デューデリジェンスは、M&A取引において、対象会社または事業の財務についてその状況、リスク、課題を検討する調査です。一般に対象会社の過去の一定期間における業績、財政状態並びにキャッシュフローの分析を通じて、当該M&A取引案件の評価や投資意思決定に資する情報の提供を目的とします。
主要な分析項目と手続き
財務デューデリジェンスにおける一般的な分析項目と検討手続は以下の通りです。
収益性分析
過去業績の推移、非経常的な要因を除去・調整による本来の収益性の把握(正常化分析)、事業計画との整合性
運転資本分析
運転資本の内容把握、資産性の検討、季節性等による増減要因、必要資金水準の把握
設備投資分析
過去の設備投資の内容、投資金額実績、将来計画の把握
純有利子負債分析
報告残高の把握、企業価値算定にあたり考慮しておくべき有利子負債に類似する項目の抽出
簿外債務、偶発債務
訴訟や保証債務等、貸借対照表に計上されていない潜在債務の把握、損失顕在化の可能性の洗い出し
経営意思決定への利用
上記手続により検出された項目は、投資意思決定の判断のために、以下の事項への反映を検討します。
企業価値の算定、買収価格の決定
ディールストラクチャーの決定
株式譲渡契約書への反映(価格調整方法、表明保証・補償によるリスク緩和)
買収後の統合における課題(PMI)
税務デューデリジェンス(税務DD)
税務デューデリジェンスの意義と目的
買収・統合対象企業に潜む税務リスクを事前に分析し対策を講じることは、買収後の経済的損失を避けるための重要な手段であり、また、M&Aストラクチャーを構築する際の有用な情報を得られる重要な場となります。そのため、税務デューデリジェンスにより、買収及び買収後に重要な影響を与える税務リスクの洗い出しを行います。
主要な分析項目と手続き
M&A取引における税務リスクとは、一般的にはM&Aの対象会社・対象事業の過去の税務処理(申告書の記載内容、届出の漏れ等)の内容に誤りがあり、その過ちが後に露見して予期していないデメリットを負うことを指すと考えられますが、対象企業の税務リスク分析は税務申告書を査閲するのみではなく、企業の属性(上場企業・オーナー企業等、所在地、業種、ビジネスフロー、税務ポジションなど)を考慮した総合的な分析が必要となる場合もあります。
なお、税務デューデリジェンスにおける主な調査項目と検討手続は以下の通りです。
過去の税務調査状況の把握
税務申告書の閲覧と主要調整項目の内容の把握
– 過去に実施した組織再編取引の課税関係の分析
– 関連当事者間取引価格の妥当性の分析
検出項目の評価と意思決定への織込み
識別した税務リスクや対象企業の税務ポジションに応じ、買収価額の調整や表明・保証条項での手当て、ストラクチャー案の見直しといった税務リスクの軽減策を検討する必要があります。
引用元:
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/mergers-and- acquisitions/solutions/duediligence.html
まとめ
最近、上場企業では、M&Aが頻繁に行なわれています。M&Aが成功するかどうかはアドアバイザリー次第といってもいいでしょう。そして、M&Aにおけるデューデリジェンスは買収を行うかどうかの大事な判断基準となります。特に、財務および税務のデューデリジェンスは、会計士が担う業務であり、責任の重い仕事であるといえます。
監査業務は従来からある業務であり、監査業務を今後拡大していくには、限界があります。一方で、M&Aの案件は今後、さらに件数は増加することが予測されるので、会計士にとって需要の高い業務となりえるでしょう。
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