特許法律事務所とは
公開日:2017/05/23 | 最終更新日:2023/03/23
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特許法律事務所とは、文字通り、特許事務所でもあり法律事務所でもある事務所です。弁護士のみが在籍している場合もありますが、基本的には、弁理士と弁護士の両方が在籍している事務所です。日本弁理士会の弁理士ナビで検索すると、特許法律事務所は30件(法律特許事務所は83件)となっています。ちなみに、特許事務所の数は5000位と言われていますので、数としては少ない状況です。特許法律事務所について、見ていきましょう。
1.特許法律事務所の設立
特許法律事務所が設立されるパターンとしては、以下の3つが考えられます。
(1)特許事務所に弁護士が入所する場合
このパターンが最も多いです。以前は、弁護士が特許事務所に就職することはほとんどなかったでしょう。このような状況に変わったのは、やはり、法科大学院が各地で設けられ、司法試験の合格者が大幅に増えた結果、弁護士が多くなったからです。インターネットでプロフィールを公開している特許法律事務所のホームページを見ると、法科大学院を出ている弁護士が多いことに気づきます。なお、出身大学の学部は、法学部だけでなく、他の文系学部や理工系もあり様々です。
そのようなパターンの半数以上は、所長弁理士の息子・娘が司法試験に合格して、後継ぎ弁護士として入所しているという印象です。やはり、親と同様の職業に就こうとする子供が多く、そうであれば、親として司法試験合格までは全面的にサポートして、弁護士になった時点で入所させる、ということだと思います。特に司法試験が大幅に易化した近年では、そのような考えになりやすいでしょう。中規模以上の特許事務所では、後継ぎ弁護士が入所すると、さらに弁護士を数人入所させて脇を固めておく傾向もあります。
また、知財訴訟の経験豊富な弁護士や退官した裁判官を招き入れるパターンもあります。この場合、その人に敬意を払い、共同の代表パートナーや顧問などの地位を用意するのが一般的です。強力な弁護士が入所しますので、特許事務所の実力がアップするのは間違いないでしょう。相手方の代理人からすると、手ごわい相手と感じます。ただ、弁理士である所長がそのようなトップクラスの法律家を所員として扱うのは、なかなか難しいと思われます。
(2)法律事務所に弁理士が入所するか若しくは弁護士が弁理士業務を行う場合
このパターンには、知財分野まで業務の幅を広げたい法律事務所が当てはまります。ただし、弁護士は、弁理士業務を行うこともできますので、実際には、弁理士が入所することによって特許法律事務所を設立、というのはあまりありません。弁理士が初めて入所する場合でも、法律事務所のまま名称変更はしないことの方が多いです。
弁護士自身が、知財案件も専門であることをアピールするために特許法律事務所を設立するのが一般的でしょう。
ただし、特許出願案件を受任する場合は、理系出身の弁理士でなければ非常に困難ですので、取り扱う案件を商標関係のものに限定するか、弁理士を雇用して特許出願案件に対応するか、どちらかを選択することになります。
(3)弁理士と弁護士が共同で、新規に事務所を設立する場合
このパターンは以前は少なく、その理由としては弁理士同士であれば接点が多く、共同で開業という事例は多いですが、弁理士と弁護士の接点は限られていたからで、弁理士と弁護士である親子や友達同士で設立することがほとんどでした。しかし最近ではこのパターンも増えつつあるようです。上記(1)(2)で説明したケースが増加するに伴い、一緒に働いていた弁護士と弁護士が共同でスピンアウトして新たな事務所を設立する流れも出来つつあるようです。
2.特許法律事務所設立の目的・メリット
特許法律事務所という形態にするのは、弁理士・弁護士双方にそれなりのメリットがあるからです。そのようなメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
【弁理士のメリット】
・対外的に、実力のある事務所であることをアピールできる。
・法律的知識が強化されることにより、知財の出願業務にも反映できる。
・警告状受領時や侵害訴訟対応時にいつでも弁護士と協議でき、クライアントにも方針等を迅速・確実に伝えることができる。
【弁護士のメリット】
・仕事の幅が広がる。
・他の弁護士との差別化ができ、特許等、知識が少ない知財案件でも、常に弁理士と共同で対応できる。
・クライアントが増えることにより、知財以外の民事案件の依頼がくる可能性も高くなる。
特許法律事務所であっても、弁理士の基本業務は出願業務ですし、弁護士も知財案件以外の民事案件(離婚、相続など)の方が取扱件数が多いと思いますので、一緒に仕事をすることはあまりないかもしれません。ただし、事務所の賃貸料等を折半できる等のメリットもありますので、今後もしばらくは特許法律事務所の数は増え続けるでしょう。
3.特許法律事務所の代表的な所員構成
規模によって異なりますが、200名ほどの大規模特許法律事務所の所員構成の一例は以下のとおりです。
パートナー(経営者):弁護士数名及び弁理士数名
アソシエイト(一般所員):弁護士10名及び弁理士70名
顧問:弁護士数名
その他:特許事務員50名、特許技術者30名、翻訳者20名、外国弁護士・弁理士10名
4.特許法律事務所の業務
(1)出願業務(特許、商標、意匠など)
弁理士のメイン業務です。国内案件担当と外国案件担当に分かれていることも
あります。また、出願が拒絶された場合、不服審判を請求する事案もあります。商標の出願案件であれば、弁護士が担当する場合もあるでしょう。
(2)権利侵害対応(クライアントからの相談、警告状対応など)
クライアントから、「うちの特許権を侵害している商品を見つけた」とか「ある会社から警告状が送られてきた」などの相談を受けることがあります。このような場合、知財に関する侵害案件になりますので、弁護士と弁理士が一緒に対応することになります。場合によっては訴訟に発展することもあります。
(3)侵害訴訟対応(原告代理人・被告代理人、訴訟提起に伴う無効審判請求など)
訴訟を提起して争うことになった場合、訴状や答弁書の作成など、かなりの労力をかけて対応しなければなりません。考慮すべきこと議論すべきことが多いため、同じ事務所内で対応できる特許法律事務所は有利かもしれません。
なお、侵害訴訟の件数は年間200件足らずですので、実際は、侵害訴訟を代理することはあまりありません。
(4)他の分野の弁護士業務
弁護士ですので、知財案件に限らず、他の民事事件等に関わることができます。上記の通り知財に係る侵害訴訟の件数は少ないですので、知財以外の法律相談・訴訟代理も行うことになるでしょう。
5.まとめ
最近は、公認会計士や税理士を所員とする法律会計事務所も多くなっています。弁護士の数が増え、弁護士業務だけでは売上が伸びなくなっていますので、特許法律事務所、法律会計事務所のように、総合的な法的サービスの提供を売りにする事務所は、今後も増えていくでしょう。全ての士業が在籍する総合型事務所も出てくるかもしれません。
但し、既存の特許事務所に幹部として弁護士が入所し、特許法律事務所が設立された場合、事務所の雰囲気が大きく変わり、退職する弁理士・所員の数が増えたりするところもあるようです。設立の経緯等によっては、特許法律事務所になることがデメリットになることもありますし、事務所によって業務の特徴やバランスは在籍している弁理士や弁護士によっても異なります。実際にどの業務を強みとしているかなどは、個別に見ていく必要があります。
2003年から、弁理士が、弁護士と共同で代理している知財の侵害訴訟に限って訴訟代理人になることができる、特定侵害訴訟代理業務試験も始まり、弁護士と弁理士が、より密に連携し、訴訟手続に対応することが増えました。可能性は低いと思われますが、知財に関する侵害訴訟件数が少ないこともあり、もし弁理士が単独で侵害訴訟の訴訟代理人になることができるようになれば、特許法律事務所の状況も変わっていくかもしれません。
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