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在宅ワーク弁理士特許技術者

弁理士、特許技術者の在宅ワークについて

2019年1月28日
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公開日:2019/01/28 | 最終更新日:2019/01/28

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最近は、働き方の多様化により、在宅ワークも一般的になってきました。ランサーズのようなクラウドソーシングをはじめ、急速に拡大している企業の在宅勤務も在宅ワークに該当します。
弁理士業務もパソコンと電子出願ソフト等があれば、基本的には作業を進めることができますので、形式的には在宅ワークが可能です。そして、これまでも、在宅ワークを行う弁理士はいました。今回は、弁理士及び特許技術者の在宅ワークについて、その問題点も含めて説明したいと思います。

1.弁理士業務について

在宅ワークについて具体的に見ていく前に、まず、弁理士業務について確認しておきたいと思います。
弁理士の主な業務は、特許、実用新案、意匠、及び、商標に関する出願代理や訴訟代理です。より詳細には、弁理士法第4条から第6条の2までに規定されています。
これらを大きく分けると、新しく創り出したものを保護する特許、実用新案、意匠と、マークに存在している信用を保護する商標とに区別されます。
特に前者は、少なくとも新しいものでなければ権利化できませんので、依頼人からの発明等に関する情報は、弁理士としては事務所において秘密のものとして厳重に管理しておく必要があります。後者についても、権利化に新しさは要求されないものの、依頼人の個人情報や今後の依頼人の事業展開がうかがえる内容が含まれている場合がありますので、情報管理を怠らないようにしなければなりません。

2.弁理士の在宅ワークについて

弁理士の在宅ワークについては、問題が生じうる場合とその可能性は低い場合があります。

(1)特許事務所が自宅兼事務所の場合
この場合は、自宅が特許事務所ですので、基本的には在宅ワークを行うのに何の問題もないでしょう。特に独立開業したばかりの弁理士の場合、最初は自宅開業を選択することがあります。  
但し、自宅開業する場合でも、発明の内容が誰の目にも触れないように管理しておくことが最低条件となります。少なくとも、執務スペースと応接スペースは完全に分離させておき、鍵がかかる扉を設ける等して執務スペースには誰も入れない状態にしておかないと、依頼人等に状況を知られた場合、信頼を失ってしまう可能性があります。
さらに、万が一のために、発明内容等を記載した書類については、使用しない時は鍵の付いたキャビネット等で厳重に保管しておかなければなりません。また、特許明細書作成等のために使用しているパソコンから離れる時は、パスワード入力が必要なセキュリティを常時働かせるくらいの用心深さが必要でしょう。

(2)特許事務所が自宅以外である場合
この場合に問題が生じる可能性があります。まず、一般的な多くの特許事務所は、情報漏洩を避けるために、所属弁理士の在宅ワークを認めていません。そして、弁理士法第30条には、「弁理士又は弁理士であった者は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。」と規定されていて、弁理士の秘密情報に対する注意義務を明確にしています。
先ほど述べたように、特許権等を取得するためには発明の「新しさ」が基本条件となりますが、万一特許事務所から自宅までの移動の途中で発明に関する書類や記憶媒体を紛失すると、その「新しさ」が失われかねません。また、自宅アドレスにメールを送ろうとしても、誤って他人に発明の情報を送信してしまうかもしれません。さらに、自宅で使うパソコンや記憶媒体のセキュリティ対策も問題となります。

もし情報を紛失したり他に漏れてしまった場合、依頼人から多額の損害賠償を請求される可能性がありますし、それにも増して、その依頼人からの仕事と特許事務所の対外的な信用が完全に失われ、日本弁理士会からも厳しい指導・処分を受けることになるでしょう。
確かに、多忙な時期に、休日前に家に資料を持ち帰って、休日の間在宅ワークをしている弁理士がいるという話も聞きます。確率論で考えると、他人に発明情報が漏れる可能性は低いかもしれません。しかしながら、情報が漏洩された場合の事態の深刻さを考えると、休日出勤に代える等して、弁理士といえども在宅ワークは極力避けるべきでしょう。

3.特許技術者の業務と在宅ワークについて

 
弁理士法第77条には、「弁理士若しくは特許業務法人の使用人その他の従業者又はこれらの者であった者は、正当な理由がなく、第4条から第6条の2までの業務を補助したことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。」と規定されていて、特許技術者を含む従業者が弁理士法第4条から第6条の2に規定する弁理士業務を補助できること、及び、従業者の秘密情報に対する注意義務を明確にしています。
また、日本弁理士会会則(会則第17号)第46条(使用人等の監督)には、「会員は、その使用人その他の従業者に法第77条の規定による秘密を守る義務を遵守させるとともに、その業務の補助について、それらの者に対し、必要な指導及び監督をしなければならない。」と規定されています。
この規定より、弁理士には、自ら秘密を守る義務があるだけでなく、従業者等に秘密を守らせる義務があることになります。そうなると、特許技術者が在宅ワークした場合に、弁理士がその義務を果たせるか、という問題が生じます。特許技術者の自宅で作業を監視しておくことは難しいでしょう。

そして、あまりに特許技術者に業務を任せきりにしていると、「名義貸し」という新たな問題点が発生します。この点はかなり昔から議論されてきて、最終的には平成19年に弁理士法第31条の3において「弁理士は、第75条又は第76条の規定に違反する者に自己の名義を利用させてはならない。」という名義貸しの禁止に関する規定が新設されました。この規定に違反した弁理士は、経済産業大臣の懲戒又は日本弁理士会会長による処分の対象となることが弁理士法や日本弁理士会会則で決められています。
特許技術者が弁理士に無断で在宅ワークを行っている事例があるかもしれませんが、以上のようなことを考えますと、特許技術者が在宅ワークを行うことは非常にリスクが大きく、特許事務所及び弁理士は、常日頃から自宅で仕事は行わないよう特許技術者に対し指導・監督しておかなければなりません。

4.まとめ

今回は、否定的な話ばかりになってしまいましたが、営業秘密や情報漏洩の問題が毎日のように報じられている現代においては、弁理士をはじめ特許事務所はより一層そのよう問題が生じないよう注意しなければなりません。現に、大手特許事務所を中心に、ペーパーレス化と連動した情報管理の厳密化を進めているところが多くなっており、当然の流れというべきでしょう。
その意味では、在宅ワークは、特許技術者等の従業者に対し強く禁止する一方、弁理士であっても、よほどのことがない限り避けた方がよいと考えられます。

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