技術分野別、特許事務所の業務内容について(電気系編)
公開日:2017/06/22 | 最終更新日:2017/06/22
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電気系の技術は、最近大きな広がりを見せています。それは、AI(人口知能)やIoT(Internet of Things あらゆるものがインターネットでつながること)などを利用したインダストリー4.0(第四次産業革命)が実現に向けて急速に進んでいるからです。特許事務所の業務内容も変わりつつあります。
そのような状況を含め、電気系特許の特徴及び動向はどのようになっているか、調べてみました。
1.発明の対象
(1)物の発明
電気回路、半導体デバイス、ソフトウェアなどが代表的です。ソフトウェアは、特許庁では「コンピュータの動作に関するプログラムなど」を指しています。もともとプログラムは「物」ではなく、特許の保護対象にはならないと考えられていましたが、10数年前に「物」として取り扱われるようになりました。そして、ソフトウェア関連の発明件数は飛躍的に伸び、一時期はビジネスモデルの発明も多く出願されました。
(2)製造方法の発明
電気回路の製造方法や、半導体デバイスの製造方法などが挙げられます。プログラムの製造方法も稀にあります。しかしながら、化学系と比べて製造方法の発明はかなり少なく、半導体デバイスの製造方法でも化学物質等がクレームの構成要件に含まれることがよくあり、電気系に特化した製造方法の発明というのは多くありません。
(3)方法の発明
ソフトウェアによる情報処理方法、表示方法などが挙げられます。ソフトウェア関連発明が非常に多いことから、ソフトウェアを使って処理するステップが含まれる方法などが発明されやすく、方法の発明はよくあります。
2.出願人について
電気系は、日本を代表する大手電機メーカーが競って出願を行っているため、割合としては、個人や中小企業の出願人と比べて、大企業の出願が大部分を占めています。ただし、ソフトウェアやビジネスモデルの分野では中小企業が出願する場合もありますので、出願件数としては、他の分野と比較して中小企業の件数もそれなりにあります。
3.クレーム・明細書等の特徴
(1)クレームの記載の特徴
電気系の特許出願は、新しい技術分野が多く、他の分野とも関連することが多くなっています。電気系のクレームに記載される発明を分類すると、概ね以下のようになります。
① 装置、回路、半導体デバイスなどの発明
電気系の代表的な発明ですが、装置は機械的要素も含まれ、半導体デバイス等は化学的要素も含まれます。そのため、クレームも、前者の場合は構造で特定したり、後者の場合は物質の含有量等で特定することも多いでしょう。
② ソフトウェア関連発明
現在の電気系の特許出願では、このソフトウェア関連発明がかなりの割合を占めます。今日では、ソフトウェアは、従来からあるコンピュータなどのハードウェアによって作動しているだけでなく、電化製品や自動車・航空機などあらゆるものに関係していることが一つの要因です。
ソフトウェアは、構造などで特定できないため、機能的な記載になることが多いです。例えば、「~を測定するための……制御手段として機能させるコンピュータプログラム」などです。
③ ビジネスモデル発明
特許庁は、「ビジネスモデル発明とは、ビジネス方法が情報通信技術(ICT)を利用して実現された発明である」と定義しています。そのため、良いビジネス方法を発明したと主張しても、情報通信「技術」を使用したものでなければ特許されない、ということです。特許制度は技術を保護するものだからです。
ビジネスモデル発明の特許性が認められ始めた2000年頃、ビジネスモデル発明の件数は20,000件近くに達しましたが、現在は6,000件前後になっています。情報通信技術を利用しなければならない、というのがネックになっているのでしょう。
ビジネスモデル発明に関するクレームの記載例としては、「~するステップと、~するステップとからなるポイントサービス方法」などが挙げられます。
④ IoT関連発明
昨今メディア等でよく取り上げられるのがIoTで、特許庁もそれらの発明が急増するのを予測して、平成28年 9月にIoT関連技術に関する事例を審査ハンドブックに追加しました。
IoT関連発明は、上のビジネスモデル発明の一種であると考えられています。特許庁がIoT関連発明のモデルとして、センサ等からデータを取得→データを通信→クラウド等に蓄積→AI等により分析→新たなデータを作成→いろいろな分野で利用、というものを考慮しています。まさしく、ビジネス方法が情報通信技術を利用して実現された発明と言えるでしょう。
IoT関連発明は、分野が多岐にわたるため、最近は、大手自動車メーカーと大手電機メーカーが共同で発明したり、日本の会社がアメリカの有名なIT企業等と一緒に開発を進めることが多くなっています。
特許庁の資料を参考にすると、IoT関連発明に関するクレームの記載例としては、「三次元移動が可能なドローン装置によって、見守り対象を見守るドローン見守りシステムであって、複数の前記ドローン装置と、前記見守り対象に携帯される端末装置と、通信ネットワークを介して前記ドローン装置及び前記端末装置と接続される管理サーバとから構成され、前記ドローン装置は……手段を備え、前記端末装置は……手段を備え、前記管理サーバは……手段を備えることを特徴とする、ドローン見守りシステム。」というものが挙げられています。
(2)明細書の記載
電気系の技術が発明の特徴となっている装置や回路には、明細書に回路図を含めることが一般的です。ただし、あまり具体的な回路図を含めると権利範囲が狭く解釈される可能性もありますので、特徴部分に関する回路図以外はブロック図などでおおまかに示す方がよいでしょう。半導体デバイスなどは、化学物質などが構成要件に含まれることがよくありますので、明細書の記載も化学系の要素が現れたりします。装置であれば、機械系の勅許明細書のように、装置の構造に関する図面が必要となります。ソフトウェア発明であれば、フローチャート、ブロック図など、ネットワークや情報処理を説明する内容になります。
これまでは、電気系の明細書の記載量はそれほど多くありませんでしたが、IoT関連発明が飛躍的に伸びることが予測されますので、ネットワークに繋がるあらゆるものを明細書に記載・説明しておく必要が生じ、記載量が膨大になる可能性が高いでしょう。
AI等、世界的に競争が激しい分野ですので、権利範囲の解釈等についても、今後新たな問題が生じるかもしれません。
5.外国関係
電気系もPCT出願を行って、国内移行手続により、各国で権利化を図るのが一般的です。
なお、ソフトウェア発明のクレームでよく用いられる「…するための手段(means for …ing)」や「…するステップ(step for …ing)」という記載はアメリカでは認められませんので、書き方を変えるなど別の方法を採る必要があります。
また、ネットワークを利用した発明は、特許発明の実施が複数国において複数人によって行われることがあり、特許権侵害を考えた場合、権利の効力は他の国には及びませんので、注意が必要です。
6.今後(まとめ)
電気系は、ソフトウェア及びネットワークを利用した発明が非常に多くなっています。サイバー攻撃などの問題が取り沙汰されていますが、知財の観点から、有効な権利になりえるのかどうかということも考えなければなりません。
AIやIoTなどにより、技術が急激に進歩していくことが予想されますが、知財に関する法整備も併せて考えていく必要があるといえます。
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