弁理士におけるTOEICスコアの必要性
公開日:2019/03/19 | 最終更新日:2020/10/21
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知的財産については、日本が40年以上前にパリ条約に加入してから外国出願が行われてきましたが、手続を簡素化して1つの願書で加盟国全体に出願したものとみなす国際出願、すなわち、特許については1978年に特許協力条約(PCT)に、商標については2000年にマドリッド協定議定書(マドプロ)が発効してから、日本では外国出願が増加してきました。もちろん、近年における国際的取引の増加も影響はしています。
このような現代の知財を取り巻く環境から、外国の特許庁や特許事務所とやり取りを行う能力は弁理士としても必須の要件となりつつあります。
よく知られていますが、英語力を判断する指標としては、一般的に、TOEICスコアが利用されます。特許事務所に面接に来る応募者も、履歴書にTOEICスコアを記入することが多いです。外国案件に関係する一般所員であれば、TOEICスコアを重視されるでしょう。
一方、弁理士や特許翻訳担当者は、TOEICスコアは参考程度にしか見られません。それは何故でしょうか。今回は、弁理士の業務と英語の関係と、TOEICスコアの必要性について見ていきたいと思います。
1.TOEICについて
まず、TOEICについて内容と特徴を確認しておきます。TOEICは、Test Of English for International Communicationを略したものです。その名の通り、国際的な「コミュニケーション能力」を測るテストになっています。日本が中心になってできたテストで、世界的に行われていますが、受験者の多くは日本人及び韓国人となっているようです。
現在は年10回実施されており、その問題は、リーディングとリスニングで構成されています。要するに、読む力と聞く力を見るテストです。また、TOEICはテクニック重視の試験だと言われています。試験中の問題の処理の仕方も、書籍やインターネットでいろいろな情報が掲載されています。
一般企業では、英文レターやメールだけでなく、口頭でのコミュニケーションも重要になってきます。そのため、求人においてTOEICスコアの最低ラインを設けたり、応募者が履歴書におけるアピールポイントにしたりするのです。ただし、一般的なTOEICは、上記の通り、音声ではリスニングの問題しか出題されず、スピーキング能力は問われませんので、英語をほとんど話せないTOEIC高得点者も結構存在しています。
2.特許業界における英語について
(1)企業の場合
特許業界とはいえ、企業の場合は、特許明細書翻訳等の技術英語を使うことは少ないですが、外国の特許代理人に英文レター等で直接連絡をとったりすることもあるため、TOEICスコアが転職に有利に働くことはあるでしょう。特に特許出願の多い大企業の場合は、外国代理人が直接訪問してくることもあるので、知財に関して英語で会話できることを要求される場合もあります。上で述べたように、TOEICスコアとスピーキング能力は直接関係するものではありませんが、多くの企業では未だにTOEICスコアに基づいて転職希望者の英語能力を推測しているようです。
(2)特許事務所の場合
特許事務所は、多くのクライアントから外国出願等の依頼を受けています。そのため、英語を使用する仕事としては、日本語の特許明細書の英訳、外国代理人から送られてきた書類の和訳、外国代理人への英文レター・メールの作成、外国からの電話や訪問者の対応等、多岐にわたります。
そこで、まず、特許事務所に勤務している弁理士について、以下のように場合分けをして考えたいと思います。
①国内案件を中心とする弁理士
前述のとおり外国案件が増加しているにもかかわらず、国内案件を中心としている弁理士が大多数を占めているのが現状です。確かに、国内案件の処理だけでも、かなりの業務量になっていることが多く、外国案件まで手が回らないという事情もあるでしょう。このような弁理士は、案件数自体が少ない小規模特許事務所か、分業化が進んでいる大規模特許事務所に多いようです。
大規模特許事務所の場合、外国案件数自体は多いですが、翻訳業務を専門スタッフが行うため、ほとんどの弁理士が全て日本語で対応できています。その方が、誤りが少なくなり事務所のサービスの質も保たれる、という考え方もあります。
このような弁理士の場合、英語能力はあまり必要ありませんので、TOEICスコアはほとんど考慮されず、実際、TOEIC自体受けたことがない弁理士が大半であると思われます。中小規模の特許事務所の場合については、翻訳業務を専門とするスタッフが在籍していないケースもありますが、外注をしているケースなどもあります。外注もしていないケースであれば、相応の語学力は必要となるようです。
②外国案件専門、又は、外国案件も対応する弁理士
それでは、外国案件も自分で対応している弁理士はどうでしょか。この場合は、間違いなく英語能力が必要とされます。
まず、最も専門的である特許明細書の翻訳(英訳・和訳)の場合は、技術内容を的確に把握し、それにふさわしい英語を記載していく必要があります。この能力を測る代表的な資格・検定として、工業英検と知的財産翻訳検定試験があります。
工業英検は、公益社団法人日本工業英語協会が実施している英検で、この協会のホームページには、「科学技術文書を読む能力 ・書く能力を客観的に正しく評価する試験」であることが明記されています。工業英検は、1級から4級まで5段階あり(準2級が存在しているため)、弁理士のプロフィール等によく記載されているのは2級以上です。1級はさすがに難関ですが、特許明細書翻訳を専門とするのであれば、2級では力不足かもしれません。
知的財産翻訳検定試験は、日本知的財産翻訳協会が実施している検定試験で、この協会のホームページには、「知的財産翻訳の中心である特許明細書などの知的財産に関する翻訳能力を客観的に測るための検定試験」であることが明記されています。知的財産翻訳検定試験は、1級から3級までの3段階となっており、年2回行われています。1級は技術分野毎に分かれており、春に行われる試験は和文英訳、秋に行われる試験は英文和訳となっています。やはり、外国案件を中心に業務を行うのであれば、2級以上、できれば1級を取得することが重要かと思います。
また、外国案件を多く担当する弁理士については、アメリカやヨーロッパの特許法律事務所等に一定期間滞在し、現地の実務経験を積むこともよく行われます。また、このような経験により、会話によるコミュニケーション能力も養われます。
このように見ていくと、弁理士には高いTOEICスコアはほとんど必要ないことがお分かりいただけたのではないでしょうか。
3.まとめ
特許事務所の面接でも、TOEICスコアを履歴書に書いてくる人が多いようです。また、外国事務の募集であれば600点以上とか、特許翻訳者の募集であれば800点以上というような求人をしているところもあります。
しかしながら、実際に採用するかどうかとなると、外国事務の場合は人柄を見るでしょうし、特許翻訳者の場合は、実際に翻訳のトライアルをしてみてその結果で判断することがほとんどですので、TOEICスコアが決め手になることはあまりありません。
そして、弁理士にTOEICスコアがそこまで必要でないことは上で述べた通りです。
英語業界において、TOEICの情報や話題が多い以上、社会全体ではTOEIC偏重の傾向がしばらくは続くかもしれませんが、弁理士に関しては、実務に即した英語能力がこれからも求められるでしょう。
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