付記弁理士とは?
公開日:2018/12/05 | 最終更新日:2020/06/16
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実は、付記弁理士とは略称です。何の略称でしょうか?
「付記」という言葉は、辞書において“本文に付け加えて書きしるすこと”と意味が記載されています。“本文に付け加えて書きしるされた弁理士”では何のことかわかりませんが、説明しますと、付記弁理士とは、“弁理士登録簿に特定侵害訴訟代理業務試験に合格した旨の付記を受けた弁理士”のことを言います。
つまり、本文は“弁理士登録簿”に該当し、付け加えて書きしるされたのは“特定侵害訴訟代理業務試験に合格したこと”になります。付記弁理士と言うと確かに呼びやすいですが、かなり省略されていることになります。
それでは、今回は、付記弁理士について詳しく見ていこうと思います。
1.付記弁理士になる方法
上で述べたように、弁理士登録簿に特定侵害訴訟代理業務試験(以下、「付記試験」とします)に合格したことを付け加えて書きしるすということから、まず、弁理士でなければならず、弁理士が付記試験を受験して合格することが前提となります。
それでは、弁理士であれば誰もが付記試験を受験することができるかというと、そうではありません。
順を追って説明すると、以下の点が条件となっています。
(1)民法・民事訴訟法の基礎知識の修得
弁理士試験の必須科目には民法・民事訴訟法は含まれていませんし、理系出身の弁理士がほとんどなので、弁理士の多くは民法や民事訴訟法の知識があまりありません。その反面、特許法は民法の特別法であり、知的財産権の侵害訴訟などでは民法・民事訴訟法の知識が必要になってきます。
その関係で、次で述べる能力担保研修の受講条件となっていることから、まず、日本弁理士会研修所の研修等により、民法・民事訴訟法の基礎知識を修得しておかなければなりません。
(2)能力担保研修の受講
能力担保研修は、(1)で述べた民法・民事訴訟法の基礎知識を修得していると認められた弁理士が受講することができます。能力担保研修は、例年4月から8月にかけて、東京、大阪、福岡で行われます。
能力担保研修では弁護士による講義が行われ、何度か起案(宿題)が出されます。起案等を無事クリアして能力担保研修を修了すると、付記試験の受験資格が与えられます。
なお、能力担保研修の受講料は200,000円と若干高額になっています。国内における知財の侵害訴訟の取扱件数の少なさ、及び、能力担保研修を修了しても特定侵害訴訟代理業務試験に合格しなれば付記弁理士になれないことを考えると、受講をためらう金額かもしれません。
(3)特定侵害訴訟代理業務試験
①試験の内容について
特定侵害訴訟代理業務試験は、例年、能力担保研修後の10月中旬頃に東京と大阪で行われます。事例問題が2問出題され、1問あたりの試験時間は3時間となっています。午前と午後に分けて行われます。各問題の出題方法としては、知的財産に絡めた民法・民事訴訟法に関する小問、並びに、具体的係争事例に関する問題となっています。そして、事例問題については、説明文(原告又は被告の言い分)、特許公報及び訴訟関連書類等が問題冊子に含まれています。分量の多い年であれば、40枚以上の問題資料に目を通さなくてはならず、内容を把握した上で、3時間かけて的確に解答しなければなりません。また、解答用紙も多いため、特に、年配の弁理士だと体力的に相当きついのではないでしょうか。
合格発表は、12月の下旬に行われることが多いです。
なお、特定侵害訴訟代理業務試験では、問題文の末尾が弁理士試験等の「…せよ」から「…してください」に変わっているのが面白いところです。受験者全員が弁理士という「先生」であることから、言葉遣いに気を使っているようです。
②合格率及び合格者数について
合格率は、年によってバラつきがありますが、平均約50%となっています。弁理士試験の合格率が平均6~7%ですから、合格率が高い印象がありますが、受験生全員が弁理士であること及び能力担保研修を修了していることから、合格するのは簡単ではありません。何度も受験している人や、合格を断念して受験を取り止める人も多くなっています。
また、志願者数が減少しているため、合格者数も年々減少しています。志願者減少の理由としてはいくつか挙げられますが、弁理士試験の合格者数の減少が主な要因になっていると考えられます。
(4)特定侵害訴訟代理業務に関する登録の付記の申請
特定侵害訴訟代理業務試験に合格した後、付記弁理士として活動するためには、日本弁理士会に対して付記申請書を提出して登録を受けなければなりません。付記申請書には、合格証書のコピーと付記手数料6,800円を添付することが必要となります。
2.付記弁理士の業務内容
知的財産権に関する侵害訴訟の依頼を受けた場合、付記弁理士でなければ、「補佐人」として訴訟手続を行うことしかできませんが、付記弁理士であれば、「訴訟代理人」として訴訟手続を進めることが可能となります。ただし、どちらの場合も弁護士が代理人として存在していることが条件となりますので、弁理士が単独で訴訟手続を行うことはできません。
例外的に、知的財産権に関する侵害訴訟の代理人となった弁理士は、裁判所が相当と認めるときは単独で出頭することができます。ただし、弁理士が単独で出頭することは、実際にはあまりないと思われます。
3.付記弁理士の今後のニーズについて
上記のように、費用をかけて苦労して初めてなることができる付記弁理士ですが、今後ニーズはあるのでしょうか。知的財産高等裁判所の統計を見ますと、知的財産権に関する全国地方裁判所における第一審の民事事件数は年間約500~600件となっており、最近10年間では大きな変化はありません。
参考までに、審決取消訴訟は、知的財産高等裁判所を第一審とするものですが、ここ数年は年間200件台で推移しており、平成24年以前が400件台であったことを考えるとかなりの減少傾向にあります。付記弁理士になるまでの知識には、裁判所手続一般も含まれますので、審決取消訴訟にも役立ちますが、当該訴訟については現在のところニーズが減少していると言わざるを得ません。
しかしながら、IoT時代に突入し、関係する技術分野が広がることから、今後は係争案件が増加することも考えられます。特に、IoT分野は国際的な出願案件が多く、外国の出願人による日本出願も増加しています。外国人は侵害訴訟の提起に抵抗がないことが多いため、侵害訴訟の依頼数が今後増加していくことも考えられます。ただし、間違いなく事案は複雑化しますので、付記弁理士としては情報収集を怠らず、信頼できる弁護士とのつながりを持っておくことが重要でしょう。
4.まとめ
付記弁理士になっておくべきかどうかは、弁理士の間でも意見が分かれています。訴訟件数等に鑑みて、「『付記弁理士』になっても訴訟事件に携わる可能性が低いから必要がない」という弁理士が少なくないことも確かです。
ただし、弁理士に関わる制度が大きく変化してきたように、付記弁理士に関連する制度も変わっていくことが予想されます。また、今後の弁理士業界において、業務の幅を広げていく必要性を感じている方も少なからずいるようです。特許事務所での基本的な業務は特許権利化のサポートであり、訴訟は法律事務所に任せる所が多いですが、今後は特許事務所としても訴訟にも積極的に関わっていくべきという声もあるようです。そういった新たな動きについて行く意味でも、付記弁理士になっておく価値はあるでしょう。
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