商標の転職市場について
公開日:2018/07/09 | 最終更新日:2020/07/28
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知財分野において商標の担当者数は特許に比べて少なくなっています。しかしながら、商標は「それに化体した信用」を保護するものであり、長期間使用することにより、その価値は特許権よりもはるかに大きくなることが少なくありません。また、外国ではブランディングビジネスも盛んで、商標を有名にするための(マーケティング)戦略も非常に練られており、今後、商標・ブランドの重要性はますます高まるものと思われます。
商標の転職市場も、特許ほどではありませんが、最近変化しつつあるようです
1.これまでの商標の転職市場
知財の転職市場においては、商標については、企業からの求人はほとんどありませんでした。企業は、人材を社内である程度調達し、出願商標が決まった後は、出願業務等はほとんど特許事務所に外注して、社員にはそのやり取りだけをさせていたためです。
そのため、特許事務所による商標担当者の募集がたまにある程度で、転職希望者に対して、求人数が少ない傾向が続いていました。
2.商標を取り巻く最近の事情
(1)新たな商標業務の出現
平成26年法改正において、特許庁は、新しいタイプの商標の保護に乗り出しました。新しいタイプの商標とは、動き商標、ホログラム商標、音商標、位置商標、及び、色彩のみからなる商標です。
特許庁審査官の審査負担が大きくなるのに、これらの商標に関する出願を一気に受け付け始めたのには、「出願件数を増やす」という国策とも言える面もありますが、他国においてそれら商標の保護が既に進んでいるという現状があるためでしょう。実際、数年前と比べて審査の所要期間は長くなっています。
これらの新しいタイプの商標では、ある程度の著名性が登録の要件となっている場合があり、一般的な商標よりも登録へのハードルが高く設定されています。そのため、登録されると、インターネット上でニュースになるなど、注目を集めています。
例えば、音商標であれば「正露丸」のラッパ音、色彩のみからなる商標であればセブンイレブンの「オレンジ-緑-赤」の3本線が登録になっています。
そのため、これからの商標の代理人は、新しいタイプの商標についても知識を集め、登録例などを把握しておき、実際の実務に反映させることができなければなりません。
(2)地域の活性化のためのブランド戦略の促進
町おこしにつなげようと、経済産業省(及びその外局である特許庁)や農林水産省は、最近、地域ブランドの保護に力を入れています。その両翼が「地域団体商標」と「地理的表示保護制度」です。
「地域団体商標」は、一般的な商標と同様に、特許庁に出願を行って商標登録を受けることによって、保護を得る制度です。一方、「地理的表示保護制度」は、平成27年に新たに設けられた制度で、農林水産省に申請を行い、所定の要件を満たすことによって、保護が与えられる制度です。今回は詳細については述べませんが、似た制度でありながら、異なる部分も多くあります。
商標弁理士は、これらの出願・申請の両方を行える唯一の存在として、クライアントに対し、両制度について正確な説明を行い、その団体の状況と対象となるブランドの内容を個別具体的に精査した上で、適切な保護方法を提案することが求められています。
(3)商標登録の重要性の高まり
特許庁が毎年発行している「特許庁ステータスレポート」の2020年度版を見ると、2019年の日本における商標登録出願件数は、190,000件を超えており、約117,000件だった2013年以降年々増加し、2017以降は190,000件前後で推移しています。
理由はいくつか考えられますが、外国企業との競争が激化する中、商標を登録しておくことが自社製品・サービスを国内外に展開する上で必須であることが認識されてきたことに加え、上の(1)及び(2)で述べたような新たな状況が生じていることと無関係ではないでしょう。
また、以前、ある会社が他人の商標を大量に出願して話題となりましたが、このことにより、商標登録の重要性を認識した人が多くなったと思われます。同様に、中国や台湾、韓国などでは、日本企業の商標の先取り出願が後を絶ちません。
他人への権利行使というより自社の商標の使用を確保するという観点からも、今後その重要性はますます高まっていくでしょう。
3.最近の商標の転職市場
(1)求人件数
それでは、商標登録出願の件数に伴って、商標に関する求人件数が急激に多くなっているか、と言えば、そうでもないようです。確かに数年前と比べると増えてはいますが、商標案件の仕事を行う組織に転職を希望している人を全て受け入れられる状況かと言うと、微妙な状況でしょう。今後は価格競争が起こるとも予測されており、採用に慎重といった所もあるかもしれません。
(2)代理出願の割合の影響
出願件数が大幅に増えているのに、求人数が増えていないのは、自社出願の割合が多く特許事務所等の代理件数がさほど増えていないことが考えられます。商標登録出願手続は、確かに一般人でも形式的には可能でしょう。ただし、大きな問題がはらんでいることが多いです。
例えば、実は指定商品・指定役務が出願人の業務範囲をカバーできていないこともよくありますし、登録要件を満たさない商標を出願してしまうことも少なくありません。
その結果、出願後に拒絶理由通知が出され、実務が分かっていない出願人からの問い合わせ等により審査官の負担が大きくなったり、相談を受けた特許事務所が難しい対応を求められることがよくあります。また、権利化後に他人から警告されたり取消審判を請求されて初めて、自分が取得した商標登録が実は無意味な内容だったことに気付く等の問題が生じやすくなっていると言えます。
出願人のためにも、特許庁が、なるべく代理人を立てて出願するよう要請するなどの対応が必要かもしれません。
前置きが長くなりましたが、今後の転職市場の拡大にも非常に重要なことでしょう。
(3)転職者の多様化
商標分野の転職者は、実は弁理士だけではありません。従来の商標事務担当者(非弁理士)に加えて、最近は、ブランディングやコンサルティングに長けている人が、特許事務所や企業にアピールして転職することもあります。
また、合格者が増えすぎて仕事が得られない弁護士が、商標案件の仕事も行うということで転職することも増えています。弁護士は、契約や訴訟手続にも長けていますので、商標事務担当者や商標弁理士の転職活動は、これまで通り厳しい状況が続いている、と言えます。
4.今後はどのような動向が考えられるか
今後の商標の転職市場では、商標登録出願案件等、これまでと同様の一般的な代理業務の求人件数は伸びないでしょう。単に代理業務を行うだけですと、付加価値が低くなり、価格競争に巻き込まれる可能性もあります。
一方、ブランド戦略やその展開方法・活用方法を具体的に提案する業務に求人件数増大の余地があるかもしれません。また、外国案件を取り扱う弁理士は、これまでにも増して転職市場で求められると思います。
ただし、商標の転職市場において、そのような能力・経験を持った人は少ないことから、商標関連の業務に就くことが多い文系出身の知財関係者は、今後も厳しい状況に置かれるのではないでしょうか。
5.まとめ
上で述べたとおり、商標分野においては新しい動きもあり、また、出願件数自体は増えています。商標関係の仕事への転職を考えている人は、より柔軟な考え方を持って、他の商標担当者と差別化できるよう、新しい知識を身につけていく必要があるかもしれません。
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