技術分野別、特許事務所の業務内容について(化学・バイオ系編)
公開日:2017/06/18 | 最終更新日:2017/06/18
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特許法の保護の対象となる発明の分野の一つに化学・バイオ分野があります。そして、特許事務所における化学・バイオ系の業務内容には、かなり特徴的な部分があります。
今回は、化学・バイオ系特許特有の点について見ていきましょう。
1.発明の対象
(1)物の発明
化学系の発明としては、化学物質、医薬、薬剤、食品、化粧品、合成樹脂などが代表的です。バイオ系の発明としては、遺伝子、微生物、動植物などが挙げられます。
(2)製造方法の発明
新たに、物を作る方法を発明した場合です。医薬の製造方法や、食品の製造方法などが挙げられます。電気系、機械系より化学・バイオ系に多い発明です。
(3)方法の発明
測定方法、分析方法などが挙げられます。なお、家庭で行われる殺虫方法や化粧方法などには、特許権の効力が及ばないため、特許出願する場合には注意が必要です。また、治療方法に関する発明は、日本では特許されません。
2.出願人について
化学・バイオ分野は、実験設備等が必要となるため、ある程度の規模の企業が出願人になることが多いです。医薬品メーカー、化学品メーカーや化粧品メーカーなどがほとんどです。なお、食品メーカーは、下で述べる理由により特許出願件数は少なくなっています。
3.クレーム・明細書等の記載の特徴
(1)クレームの記載の特徴
機械系のように構造で特定することは難しいことが多いですので、化学・バイオ系の特許出願に関するクレームには、それに代わる発明の特定方法があります。
① 用途発明
用途発明とは、クレームで用途を特定した発明です。例えば、「殺菌用組成物」や「防腐剤」などの表現があります。特許庁の審査基準には、「一般に、用途発明は、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明と解される。」と書かれています。
さらに、「……この用途発明の考え方は、一般に、物の構造や名称からその物をどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野(例:化学物質を含む組成物の用途の技術分野)において適用される。他方、機械、器具、物品、装置等については、通常、その物と用途とが一体であるため用途発明の考え方が適用されることはない。」と記載されており、用途発明は、化学・バイオ系に特有のものであることがわかります。
最近、用途発明について、特許庁で審査実務の変更がありました。
上で食品メーカーの特許出願件数が少ないと書きましたが、それは、特許庁が、これまで食品については用途発明を認めていなかったことが原因です。食品の用途は食べること以外にない、というのが特許庁の考え方でした。
しかしながら、健康志向が高まるにつれて、食品の機能性に関する研究開発が盛んに行われているという実態があり、多方面から意見を集めた結果、食品の用途発明について肯定的な意見が大部分を占めたことから、従来の取り扱いを変えたものです。
なお、食品であっても動物や植物に関する用途発明は従来通り認められませんので、「成分Aを含有する歯周病予防用グレープフルーツジュース」は許可されますが、「成分Aを含有する歯周病予防用グレープフルーツ」は許可されないことに注意が必要です。
② 数値限定発明
数値限定発明とは、クレームに数値範囲を記載した発明です。例えば、「熱可塑性樹脂30~40重量%とリン酸エステル35~50重量%を含む……組成物」などの発明が該当します。数値限定以外に特徴部分がない場合では、数値限定したことにより予測できないほど顕著な効果が得られることを発見したとき等に出願される発明になります。
③ パラメータ発明
パラメータ発明とは、発明者や出願人が独自に作り出した変数・範囲によって特定された発明です。そのため、数値限定発明の一種と言えますが、通常は、特殊パラメータ発明などと呼んで区別されています。
例えば、「次式を満足する特徴とする……
Y≧0.552X+0.003
X≧120」
などがパラメータ発明です。
④ 医薬発明
医薬発明は、その名の通り、医薬に関する発明です。医薬発明では特定の疾病に効果があることを説明し、それを裏付ける薬理データが明細書に記載されていなければなりません。特定の疾病に効果があることを明確にするという点から、医薬発明は用途発明に該当します。
通常は、出願後に薬理データを追加することはできませんので、注意が必要です。
医薬の開発には多額の開発費がかかっていますので、出願をいくつかに分けたり、世界中の国に出願することが多くなっています。医薬特許は製薬会社に多くの利益をもたらすことがあり、会社の業績への影響が大きいため、そのような重要な特許が切れる直前には、ニュース・新聞記事になったりします。
⑤ バイオ発明
バイオ発明は、遺伝子関連、微生物関連のものが一般的です。なお、微生物に係る発明については、その微生物を容易に入手することができる場合を除き、その微生物の寄託についてブダペスト条約の国際寄託当局の交付する受託証の写し、又は特許庁長官の指定する機関等にその微生物を寄託したことを証明する書面を願書に添付しなければならないとされています。そのため、微生物関連の発明には、寄託が必要となる場合があります。
(2)明細書の記載の特徴
化学・バイオ系の特許出願においては、実施例の記載が非常に重要かつ不可欠です。実施例の記載により範囲の広狭が決まるといっても過言ではありません。特許出願においてはクレームの構成要件をできるだけ上位概念化することが重要ですが、実施例が不足していると、記載要件違反と判断される可能性が高いからです。
また、明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならないため(実施可能要件)、発明品を製造できること(How to make)及び発明品をどのように使用するか(How to use)についての記載が明細書に含まれていなければなりません。
クレームは、できる限り上位概念で構成するように記載されますので、必然的に、含まれる物質等の数が多くなります。それらの物質等は、できるだけ具体的に列挙されることが一般的ですので、物質名が延々羅列される明細書が出来上がります。
さらに、クレームの構成要件である物質が多くなると、それに合わせて実施例の数も増えます。
これらのことから、化学・バイオ系の明細書は、記載量が膨大になることがよくあります。
5.外国関係
化学・バイオ系も、PCT出願を利用した出願がほとんどです。特に医薬の場合、外国出願する発明(医薬品)を厳選して、全世界的に出願することが多いです。そのため、加盟国が多いPCT出願は有効な手段となります。
各国の化学・バイオ系の審査実務の留意点としては、中国及びヨーロッパは「直接かつ一義的」な補正しか認められないこと、及び、インドは既知物質の医薬用途発明は特許されないこと、が挙げられます。化学・バイオ系の特許は、国民生活に影響を及ぼす場合があるため、自国の事情が反映され、各国で審査実務が異なることが多くなっています。
6.今後(まとめ)
化学・バイオ系は、今話題になっている第四次産業革命などにはあまり影響されない分野と言えます。それでも、医薬品業界では、新薬の創出にAIを利用する動きも見られます。
今後は、そのような化学物質の新たな製造方法が発明されたり、国ごとにかなり異なる審査実務をできるだけ近づける努力がなされる可能性が高いと思われます。
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