特許事務所の年収はどれくらい?
公開日:2017/01/04 | 最終更新日:2024/06/07
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特許事務所の所員としては、通常、弁理士、特許技術者、商標担当者、特許翻訳者、及び、事務担当者がいます。事務所の形態としては、通常、個人事業主である弁理士が所長となる「特許事務所」と、2人以上のパートナー弁理士が共同経営を行うことによって法人化された「弁理士法人」の2種類があります(弁理士以外に弁護士も在籍する「特許法律事務所」という形態もあります)。つまり、弁理士には、所長弁理士、パートナー弁理士および勤務弁理士が存在することになります。
所員ごとにみていくと、特許事務所の年収は、おおよそ以下のようになります。
弁理士
(1)所長弁理士
弁理士数が10人以上の大規模特許事務所の場合、所長弁理士の年収は、数千万円~数億円になることもあるようです。このような事務所は、少なくとも、開業から10年以上経過していることがほとんどで、経営も安定しています。また、この規模になると、知的財産(特許、実用新案、意匠、商標)の全分野をカバーできるため、国内・海外を問わず、あらゆる仕事を受けることができ、売上が多くなります。このことが、大規模特許事務所の所長弁理士の年収が高い理由の一つです。
弁理士数が5人~10人未満の中規模特許事務所の場合、所長弁理士の年収は、1千万~5千万円であることが一般的です。順調に出願依頼数が増えた場合、開業から5年ほどでこの規模に達することもあります。弁理士の人数が少なくても、事務所全体の所員数が多い中規模特許事務所では、大規模特許事務所と同様に、あらゆる仕事を受けることができ、かなりの売上を上げていることがあります。
弁理士数が1人~5人未満の小規模特許事務所の場合、所長弁理士の年収は、数百万円~数千万円であることが多いでしょう。開業後しばらくは、弁理士数が少なく、収入も安定しないことから、勤務弁理士より年収が低くなることがあります。通常は、開業後2~3年経つと、業務が軌道に乗り、1千万円~数千万円の年収が得られるようになります。ただし、小規模特許事務所の場合、知的財産のうち、機械分野の特許のみ、化学分野の特許のみ、あるいは、商標のみ等、ある分野に特化して仕事を受けることが多いため、飛躍的に年収が高くなることは少ないです。
(2)パートナー弁理士
パートナー弁理士は、共同経営者という立場であるため、(収入の大部分を独占できる)所長弁理士のような年収は得られません。
パートナー弁理士の年収は、パートナー弁理士の数が5人以上の中規模・大規模特許業務法人の場合、1千万円~数千万円であることが多いです。一般的に、規模が大きくなるに従って、パートナー弁理士の数も多くなりますので、売上が飛躍的に伸びても、パートナー弁理士の年収が大幅に多くなることは稀です
小規模特許業務法人の場合は、数百万円~数千万円であることがほとんどです。状況は、小規模特許事務所とあまり変わりません。
(3)勤務弁理士
現在、弁理士のうち、約40%が勤務弁理士となっていますす。年収は、その特許事務所又は特許業務法人(以下、「特許事務所等」)の方針、実務経験、担当する知財分野等に左右されます。勤務弁理士の年収は、500万円~1000万円がほとんどです。
弁理士数が増加し、国内出願が減少している影響で、ほとんどの特許事務所等において、業績は厳しい状況ではあります。そのため、最近は年収を低く抑えたいという傾向が見られます。ただし、外国出願の件数は増加していますので、英語の能力が高い場合、事務所によっては、高収入を得ることが可能です。
その他、クライアントへの貢献度の高い場合(出願以外の業務でも活躍が出来る等)やクライアント獲得が出来る場合、特許事務所内で若手を育てつつ実務も行う、プレイングマネージャーとして活躍出来る場合なども、高収入を得られるようです。
なお、一概には言えませんが、歴史のある特許事務所で、親子で会長・所長(あるいは、所長・副所長)となっているような事務所よりは、最近開業した40代・50代の弁理士が経営している特許事務所等の方が、やる気・実績を評価してもらえやすく、高収入を得られる可能性が高いでしょう。
求人例
・《弁理士・特許技術者》幅広い経験が出来る大手特許事務所(年収:500万円~)
・《弁理士・特許技術者》化学材料分野に特化した特許事務所(年収:600万円~1000万円)
・《弁理士・特許技術者》着実に成長を続ける、少数精鋭の特許事務所(年収:400万円~800万円)
・《弁理士・特許技術者》質の高い明細書にこだわる特許事務所(年収:400万円~800万円)
・《弁理士・特許技術者》安定した経営基盤を持つ中堅特許業務法人(年収:400万円~700万円)
特許技術者
弁理士資格を有しないものの、技術的バックグラウンドを持ち、所内弁理士の名の下に特許明細書等の作成業務を行うのが特許技術者です。特許技術者は、弁理士を目指す人が多いですが、弁理士が難関資格であることから、受験しても数十年間合格できずにいる人もいます。また、最近、再び弁理士試験が難化しつつありますので、特許技術者として仕事を続けていく人も多くなっていくでしょう。
特許技術者の年収は、400万円~800万円が一般的です。30年以上特許技術者として従事している年配の人の中には、1000万円以上の年収を得ている人もいますが、そのような場合は稀でしょう。特許技術者の場合、50歳くらいで年収が上がらなくなることも多くなっています。
そのような状況を考えても、特許技術者として特許事務所等で働くことを考えている場合は、できるだけ早く弁理士資格を取ることができるよう努力することが望まれます。
商標担当者
弁理士は「理系の法律家」といわれ、特許事務所等は、主に特許明細書等の作成業務を行っていますが、商標案件のみを担当する商標担当者もいます。商標担当者は、文系の学部出身の人が多く、また、女性が多いのも特徴です。商標担当者のうち、弁理士を目指す人の割合は、半々、という印象です。
商標担当者の年収は、350万円~700万円が一般的です。入所時は特許技術者とあまり変わりませんが、特許の方が専門的知識を求められることから、最終的には、特許技術者より商標担当者の方が年収が低くなる傾向にあります。
ただし、商標担当者はほとんどが文系出身であることから、理系出身者より、「人付き合い・営業が得意」という人が多く、稀に1000万円近い高収入を得ている商標担当者もいます。また、昨今では商標の出願件数も伸びており、多くの案件を担当する事で年収を上げている方もいるようです。
特許翻訳者
弁理士は、他の士業と比べて、外国案件を取り扱うことが多い士業です。すなわち、日本で特許出願した場合、同じ内容について外国でも特許出願することも多く、上で述べたとおり、実際に、外国出願の数は増加傾向です。
一方、弁理士は、日常業務以外に、頻繁に改正が行われる法律や日々新たに生み出されている技術的事項の理解に時間が費やされることが多く、英語の習得まで手が回らないことから、英語が苦手な人も少なくありません。そのため、日本の出願内容に関する日本語を外国出願用の英語に翻訳するために、特許翻訳者を配置するか、また外注をすることが多くなっています。
特許翻訳者の年収は、400万円~800万円であることが多いです。特許技術者と同等の年収である理由として、以下のようなものがあります。
第一に、特許翻訳者として特許事務所等に就職する場合、
①すでに、企業や他の特許事務所において、特許翻訳者としての経験があるか、または、
②特許翻訳スクール等で、すでに特許翻訳に関する多くの知識を身につけていること、が求められるからです。なぜかというと、所内には特許翻訳者を教育する人や、時間的に教育する余裕のある人がほとんどいないからです。
第二に、特許翻訳者を志す人があまりおらず、業界全体として、人手不足になっているためです。その理由としては、特許翻訳で使用される英語は、非常に専門的であり、また、特許明細書の書き方が特殊であるため、通常、特許翻訳スクール等で勉強する必要がありますが、この授業料も高額になっていることが挙げられます。
第三に、特許翻訳者として作業を行うためには、弁理士や特許技術者に近い技術的知識を持っている必要があるからです。技術的知識がないまま特許翻訳を行うと、外国においては、出願人であるクライアントの意図と異なる内容の特許権になってしまいます。
このような事情により、特許翻訳者の仕事は、特許事務所等の中でもかなり負担が大きい、といえます。逆にいえば、そのような負担が気にならず、特許翻訳にやりがいを感じることができる人は、働き先に困ることはなく、また、高収入を得ることができるでしょう。
事務担当者
事務担当者は、特許庁へのオンライン出願を行ったり、国内外のレターの送受信作業、特許明細書等の誤字・脱字チェック、電話対応その他一般的な事務を行います。ほとんどが女性です。
事務担当者の年収は、300万円~600万円が一般的です。特許事務所等によっては、他の特許事務所等の弁理士より年収が高い場合もあります。
同じ特許事務所等に在籍する事務担当者同士は、他の業種と比べて、人間関係は悪くないことが多いようです。よく言われるのが、事務所の上層部は弁理士ですので、業務独占の国家資格に守られていて精神的に余裕のある人が多いことから、事務所全体として、和やかな雰囲気になる、というものです。
また、事務担当者の女性が結婚し、出産しても、産休後半年~1年程で同じ仕事に復帰することもよくあります。
そういう意味では、女性にとっては働きやすい業種・職種かもしれません。
まとめ
以上のように、特許事務所ではポジションによって年収にかなりの差があると言えます。特許事務所で働く場合、自身がどのような役割を担うかを想定し、年収の上げ方も視野に入れて業務に取り組んでいけば評価も上がるはずです。
特許事務所に転職をする際には、今までの経験値がどれくらいの評価を受けられるのか、第三者的立場でアドバイスしてくれる特許事務所業界に詳しいエージェントに相談してみると良いかもしれません。
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