SACTサムライマガジン
司法書士事務所商業登記

司法書士事務所における商業登記分野の転職市場について

2021年9月3日
house

公開日:2019/08/26 | 最終更新日:2021/09/03

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司法書士業務の基幹である「登記」には、不動産に関する不動産登記と会社や法人に関する商業登記の2種類があります。
商業登記は会社に関する登記なので一般的にはなじみが薄く、登記というと主に不動産登記を意味します。

司法書士業界内でも、不動産登記や債務整理、成年後見といった業務がメインで商業登記を扱う件数は少ない司法書士事務所や司法書士法人が多いのが実情です。
商業登記をメイン業務や専門にしている事務所は、会社、各種法人の数が多い東京や大阪等の大都市圏でも少なく、珍しいといえます。

勤務している事務所や司法書士法人の業務が不動産登記や債務整理ばかりで商業登記の経験が少ないことに焦りを覚え、商業登記の経験をもっと積みたいと思うことがあるかもしれません。
しかし「商業登記の経験を積みたい」という動機だけで事務所を変わりたいと考えているのなら、注意が必要です。

■商業登記は本人申請数が増加している

登記は、司法書士に絶対依頼しないといけない類のものではなく、当事者が自分で申請することも可能です。
以前は司法書士に依頼することが多かったのですが、近年自分で登記をする人の数が増えています。
不動産登記でも抵当権抹消登記や相続登記は本人申請が増え、商業登記の分野では、本人申請の増加がより顕著です。

商業登記の本人申請が増加した理由は、「登記手続が簡単になった」ことにあります。
例を挙げると、以前は、会社設立の際に専門家である司法書士でないと難しい「類似商号調査」が必要でした。
新しく会社を作りたい場合、既に存在している会社と同じ又は似ている商号は使えず登記を申請しても却下されることを防ぐために行う調査でしたが、現在では同じ住所で無い限り、会社の名前は自由につけられるようになりましたので、類似商号調査は不要になりました。
また会社の役員である取締役の任期も以前は2年だったのが、最長10年に延びたことにより登記をする回数が単純計算でも5分の1に減ったことになり、商業登記を司法書士に依頼する機会は減っているといえます。

また手続の簡略化だけでなく、インターネットで検索すれば書類の作成は簡単にできるようになり、専門家に依頼しなくても自分たちだけでも十分登記申請が可能になったことも、本人申請が増えた原因です。
上場している大企業なら専門家に任せる体制が整っていますが、殆どの中小企業では、総務部が本人申請形式で登記を行っていることも珍しくありません。

■商業登記は、より他業種が参入しやすい

登記は司法書士の専門分野なのですが、本人申請だけでなく他業種から侵食されやすい職域でもあります。
商業登記は不動産登記に比べると更に他業種に侵食されやすく、また実際に他業種に侵食されているのが現状で、商業登記だけで事務所経営を成り立たせるのは非常に困難であるといえます。

本来あってはならないことで、長期にわたって継続して登記申請を行う等悪質なケースは司法書士法違反として逮捕にいたることもありますが、会社に密接に関連する顧問税理士が本人申請の体裁を取って書類を作成して実際は代行しているケースや行政書士が本人申請という体裁を取って登記申請手続を行うケースは少なくありません。

■商業登記の将来性~「グレーゾーン問題」とは?

インターネットが広く一般に普及した影響で、数年前から「会社登記の書類作成を請け負う業者」があらわれ、商業登記についていわゆる「グレーゾーン問題」として司法書士業界内で問題になっています。

商業登記のグレーゾーン問題とは、司法書士ではない民間事業者が株主総会議事録他、登記必要書類の作成のみを行って報酬を得ている事例に対して、「申請行為を伴わない書類の作成業務のみは、司法書士法違反ではない」と、法務省が回答を出してしまっているもので、司法書士としては大打撃といってよいものです。
法務省の回答が出された2018年当時は、本店移転登記のみでしたがいまや民間事業者の書類作成代行は役員変更登記や増資登記などにまで増えてきており、このままでは商業登記の全分野に及ぶ可能性が指摘されています。
書類作成は代行業者に任せて登記申請は本人申請で行うという形式が一般化すると、司法書士にとっては死活問題です。

■自身で勉強して知識を蓄えることが必要

商業登記は「会社で起こったことを登記簿に反映するだけ」なので必要な書類も決まっているし、法務省のサイトで簡単に手に入る書式のフォーマットに沿って入力していけば書類は作成できるし、後は申請すればいいだけ、と一見簡単そうですが実は奥が深く難しい登記です。
いくら自分でできるといっても、法務部を備えているような大企業ならまだしも、税務や法律に精通した総務部社員はまだまだ日本の企業では数が少ないのが実情です。

会社や各種法人は、実社会で経済活動を営んでいます。
登記一つで取引先、銀行の融資等がうまくいかなくなったり、業務に必要な官公庁の許認可が下りなくなったりする可能性があるのです。
単なる手続としてだけではなく、会社が社会で経済活動を行っていくうえで円滑に事業を勧められるような的確なアドバイス、これがプロに頼む意義があるといえるものです。

税制は複雑で改正も多いのですが、税務のプロではない司法書士でも資本金の額や決算期は税務面にも大きな影響がありますので、基本的な税務の知識は持っておく必要があります。
建設なら建設業の許可、人材派遣なら人材派遣の許可等、各種許認可に関しても基本的な知識を持っておくことが大切です。

商業登記に限らないことですが、専門家に依頼しなくてもできる登記をわざわざ司法書士に依頼するメリットを司法書士が提示できなければ、これからますます司法書士への商業登記の依頼は、先細りになっていくことでしょう。

■転職を考える際には商業登記にこだわりすぎないほうがよい

これからの司法書士事務所は、登記だけで事務所経営を成り立たせるのが難しくなることが早くから業界内でささやかれています。
前述のように商業登記は難しいわりに、取って代わられやすい分野ですので、「商業登記の研鑽を積みたい」という理由だけで事務所を探すのは、将来を考えたうえで得策ではありません。商業登記の中でもどのような業務があるのか、他のサービスも展開しているかなどを考慮する必要があります。
その上で商業登記を専門にしたい、経験を積みたいと思うなら、会社や各種法人の数が多い東京や大阪で事務所を探すべきでしょう。

また現在商業登記が多い事務所でも、将来も継続して業務量が保証されているわけではありません。
商業登記業務を重点的に行いたければ、司法書士事務所よりも会社と密接な関わりがある税理士事務所や公認会計士の事務所などもある総合型事務所に転職して、顧客の登記をまかせてもらうようにしたほうが、将来安定して商業登記業務が行える可能性もあります。商業登記業務のみを扱う司法書士事務所も近年増えてきてはいますが、登記だけでなく、企業法務全般をサポートしているケースも見かけます。

また専門家の数が少ない地方では法務から税務まで詳しい「なんでもこなす」な司法書士が重宝されるので、逆に地方で事務所を探すというのも一つの方法です。

■おわりに

受験勉強で培った知識がそのまま活かせるのが司法書士です。
試験に合格している時点で基本的な知識は備わっていますし、商業登記は、司法書士業務のなかで多くを占めているわけではありませんので、商業登記の実務経験が少なくても、転職においてキャリアのマイナスにはさほど影響しないので、心配することはありません。
それよりもこれからの司法書士に大切なのは、登記だけでなくあらゆる分野の業務に取り組んでいく姿勢です。
商業登記にこだわることなく、将来を見据えて自分のキャリアの構築を心がけていくことが大切です。

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