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信託業務司法書士

司法書士の信託業務について

2023年3月23日
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公開日:2019/07/16 | 最終更新日:2023/03/23

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高齢者の間に、元気なうちに身辺整理を行っておく「終活」がブームを超えて定着したことに伴い、「相続」の問題が注目を集めています。
相続は「争族」とも言われ、いざ相続が開始すると相続人の間でもめごとが起こり財産の承継がうまく進まないことが、よく指摘されています。
また判断能力が衰えた高齢者の財産管理の方法としては「成年後見制度」が一般的に知られていますが、家庭裁判所が関与するので財産の利用用途が厳格かつ限定されていることもあり、申立件数は伸び悩んでいるのが実情です。

相続人間で争わずに財産を承継、管理していくため、高齢者が所有する財産の有効活用のための手法として現在注目されているのが「信託」です。

「信託」というと従来はなじみが薄いものでしたが、相続だけでなく、会社等の事業承継、地域社会のまちづくり等様々な場面で利用できると近年、「民事信託」というキーワードが世間から注目を集めており、また司法書士の新たな業務分野として期待されています。

■信託とは

信託とは、「資産保有者(委託者)」が「信頼できる相手(受託者)」に対し資産(不動産、預貯金、有価証券等)を移転し、受託者が一定の目的(信託目的)に従って、「特定の人(受益者)」のためにその資産(信託財産)を管理、運用、処分することです。

従来の信託法では、受託者は信託銀行に限られる「商事信託」で、委託者は信託銀行に財産を預け、信託銀行は委託者のために財産を運用し、取り扱われる資産も高額であることが前提でした。

しかし2006年に信託法と信託業法が大改正され、「民事信託」という新たな信託が生まれました。

■民事信託とは

民事信託は、従来の商事信託のように信託業法の適用を受けないので、「非営業信託」ともいい、信託の受託者が特定のものだけを相手として営利を目的とせず、また継続反復せずに引き受ける信託です。
受託者も信託銀行である必要はなく、誰でも受託者になることができます。
※但し、司法書士は司法書士業務としての受託者になることはできません。

前述の相続対策として財産を次世代に承継させるための信託だけでなく、事業承継のための株式信託、街並み維持のための不動産の管理信託等、様々な場面で活用できる便利な仕組みです。
資産も高額である必要はなく、少額の資産でも活用できるので様々なニーズに対応することが可能です。

事業承継の場面においては、会社の株式の多数を保有している株主が認知症に
なった場合、株主総会が決議できませんが、信託しておくことで株式の委譲がスムーズに行えて会社事業が停滞しません。
また民事信託は「相続をコントロールできる」ともいえる仕組みで、民事信託を利用すれば、被相続人の立場から孫に直接財産を承継させることも可能です。

■民事信託における司法書士の役割

民事信託で司法書士が活躍できる場面といえば、主に「登記」と「信託監督人」です。
①登記
不動産が信託されると、委託者が不動案を委託する場合委託者から受託者に所有権移転を行うのですが、その登記はもちろん登記の専門家である司法書士が担当します。

また民事信託のために会社や財団法人を設立する必要がある場合は、設立登記も行います。

②信託監督人
司法書士は、業務として民事信託の資産を管理運用する「受託者」になることはできません。
しかし他人の財産を管理することに不慣れである親族が受託者になる場合、信託監督人制度を導入して信託監督人になることができます。
信託監督人は、帳簿等の閲覧等請求権、受託者に対する報告請求権、権限違反行為の取消権、利益相反行為の取消権、受託者が損失を出した場合受託者に対して損失補填を求める等の権限があり、信託業務が適切に行われているかを確認する重要な役割を果たします。

■司法書士は「手続」に甘んじることも

民事信託は契約の内容や税務面に注意すべき点が多く、弁護士、税理士等とチームを結成して行うべきです。
しかし他士業とチームを編成すると、法律面は弁護士、税務面は当然ながら税理士が主導権を握ることになり、司法書士が前面に立って顧客と交渉したり説明したりする場面が少なくなって結局登記等の手続のみに関与するだけ、といったことになってしまいかねません。

しかし主導するのは弁護士や税理士であっても、第三者視点で契約の内容をチェックしたり問題点を指摘したりすることができるように法律や税務の基本的な知識を持って、案件に臨む姿勢が大切です。

■民事信託において注意すべきこと

民事信託を提案、構成する点で注意すべき点は次の5つです。

①委託者の判断能力は十分か
当事者の判断能力が十分であるかどうかの判断は、民事信託に限らず司法書士業務全般に必要です。
財産の所有者である委託者の判断能力が十分でないと民事信託は行えません。

②顧問税理士がいる場合、顧問税理士の意見に左右されるので注意する
民事信託には税務に関する問題が必ずと言っていいほど発生しますので、必ず税理士をチームに加えて勧めるべきです。
しかし依頼者が会社経営者等で既に顧問税理士がいる場合で、顧問税理士が民事信託に反対すると、民事信託を利用することは極めて難しくなるでしょう。

③相続人間の関係は良好か
民事信託を親族間の財産承継のような場面で利用する場合(最近では家族信託とも呼ばれているようです)、推定相続人全員が民事信託を行うことに同意しているか、意思があるかを十分確認してから行うことが重要です。
相続人が複数いる場合、一人でも反対したり難色を示していたりすると民事信託は利用できないと思った方がよいでしょう。
民事信託に反対する相続人がいる場合は、民事信託のメリットとデメリットをよく説明して納得、利用してもらうことが大切です。
民事信託を利用してもらいたいがために、メリットだけを説明するのは後々のトラブルの元になるので絶対にやめましょう。

④司法書士一人だけで信託を成立させようとしない
民事信託は当事者間の意見調整、信託契約の内容、税務の問題など高度な専門知識が必要ですので、司法書士だけで成立させることは無理だといえます。
民事信託は、税務、後見実務、登記実務等多角的な視点で個別具体的に検討する必要があるので、大切なのはチームワーク力です。
「費用を安くしたいから司法書士だけでやってほしい」と依頼されたとしても、司法書士だけで受託するのはリスクが高すぎるので止めた方がよいでしょう。

⑤費用の説明を事前にきちんとしておく
実際に民事信託を利用するとなると、税理士、弁護士、司法書士などの専門家が関与し、ヒアリング、契約書作成から各種手続まで行いますので、相当額の経費、専門家への報酬がかかります。
民事信託は、少額資産でも利用できるのが特徴ですが、会社がある、不動産がある、金融資産がかなりあるなどのよほどの資産家でないと現実的ではないことは否めません。

不動産は実家の土地建物のみ、金融資産が数百万円のみといったタイプの家庭に民事信託を提案しても、費用面で折り合いがつかずに利用できないといったことが考えられます。
事前に必要経費のことはきちんと説明して、民事信託を利用するかどうかを決めてもらうことが大切です。

■依頼者の話をよく聞くこと

初めから「民事信託制度を利用したい」と言って相談に来る依頼者は殆どいない、といってよいでしょう。
「いずれは子供に会社を譲りたいが、元気な間は自分が経営権を握っていたい」
「不動産を活用したいけれど何かいい方法がないか」といった、依頼者の漠然とした相談内容から、民事信託を導き出してコーディネートしていくことになりますが、ケースによっては、民事信託になじまない又は民事信託が利用できないこともあります。
その場合は民事信託にこだわることなく、依頼者の希望を実現するための最善の方法、代替手段を模索することが大切です。

おわりに

民事信託は、現在依頼者が抱えている心配や不安を解消できる場面が潜在的に多くあることが予想され、司法書士の新たな業務分野として注目されており、取り組みを開始している司法書士事務所も増加傾向にあります。それに伴う司法書士事務所の求人募集も見かける機会は増えてきました。しかしながら、まだ広く浸透している制度とはいえず、本格的に活用されるにはもう少し時間がかかることでしょう。

また民事信託が必ずしも依頼者にとって最良の方法ではないこともあります。
単に「司法書士の新たな業務分野だから」ではなく、依頼者の希望を実現するために有効な方法のひとつとしてとらえ、依頼者の声によく耳を傾けて業務を行うことが大切です。

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